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俺は、澪を振り切って駆け出していた。
馬鹿な澪‥
たかがジュース一本…
こんなチンピラに“恩”感じやがって…、
しかも100%の信頼を寄せて微笑みかける
無垢な澪が怖かった…。
このまま放っておく?
そうさ‥
俺は哀れな迷子にほんの少し同情し、
施しを与えてやっただけ……。
このままナニもなかったことにしてもバチはあたるまい‥
…待て、待てっ!
ナニやってんだ!?オレ!
澪は此処が何処かすら解ってないはず…
澪はまた通行人を待ち、
ソイツがどんなイカれたヤツとも知らず、
幾度も幾度もそんな輩に情けを乞うのだろうか…。
俺は
立ち止まり、
恐る恐る後ろを振り返った。
街灯の下で澪がポツンとひとり佇んでいる。
為す術もなく呆然と立ち竦み、
胸に抱いたジュースの缶が傾いて足元にポタポタ零れ落ちていた。
澪は泣いていた…。
この残酷な男に打ち拉がれた哀れな自分を庇うかのように‥
崩れそうな心と身体が砕け散ってしまわぬよう、
自分自身を固く抱き締め、
腕を噛み、漏れ出す嗚咽を押し殺す…。
喘ぎに似た抑えようのない慟哭を息も絶え絶えに‥
堪え忍ぶ‥‥。
俺は澪の純真を無碍に踏みにじった…自意識過剰の臆病者。
甘く可憐な砂糖菓子の睡蓮は
涙の雨に打たれて跡形も無く散り失せる。
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