時計は止まったときに1番価値がうまれる

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「しゃぼん玉の液を付けちゃった!ママンが、ママンがくれた腕時計だったのに、わたしこんなくだらないもののために壊しちゃったんだわ!!」 そんなことを絶叫して、ルルーはしゃぼん玉液をぶちまけた。無論、無重力のせいで緩慢にしかしゃぼん玉液は広がらない。ぱちん、ぱちん、と無数のしゃぼん玉がやはり壊れていく。 「……ねぇアイ。わたし達が地球から飛び立って何日経つの?」 「……その質問に、意味はあるかしら」 ぱちん、としゃぼん玉を突っついて壊す。 「どうせ私達しか生き残っていないのよ。地球を見捨てて逃げてきた私達に、日付なんてものがいるの?」 「……アイなんて嫌いだわ!!」 絶叫。しゃぼん玉。天使。赤いベルトの腕時計。時計は止まったときに一番価値がうまれるのだ。嘘を付けない時計が、嘘をつけるようになるから。その希少価値。小指の先でちょんと歯車を止めてしまえばうまれる価値。 ぐずぐずと泣き出すルルーを放って、はるかかなたに見える我が生まれ故郷、地球を見る。地球は青かった。そんな言葉はもう嘘で、茶色の醜い塊がそこにいる。
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