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宇宙ではものは腐らないんだそうだ。見たことないから、私はこれを真実と言いきれずにいる。
―――今日中に、ルルーにビタミン剤と称して大量の睡眠薬を飲ませるつもりだった。
ルルーがどれだけ私を信じて薬を飲んでくれるのかはわからないけど、ロケットの中で見つけた睡眠薬の全てをルルーにあげるつもりだった。眠るように、優しく死んでいって欲しかった。天使のように綺麗な髪の毛を持っている子だったから。
私はきっと、酸素か、水か、食料か、どれかがなくなってから惨めに苦しみながら死んでいくのだろうと思うと胸がざわついた。でもその横に天使のようにうつくしくて優しい死体が、あれば、どうにか、どうにか。
時計は止まったときに一番価値がうまれるのだ。本来つけない嘘がつけるようになるから。
ならば腐らない永遠にうつくしい天使の死体にはどれだけの価値があるだろう。私はその横で死ぬのだ。永遠に飛び続けるロケットの中で、永遠に、永遠に。
無重力としゃぼん玉。天使と時計。太陽と茶色の地球。それを全て覚えていられるのは私だけなのだった。
天使と小娘と絶望を一緒に乗せたこのちいさなロケットは、次は止まった時計と永遠の天使と、タンパク質の塊を乗せるだろう。さよなら青い地球。さよなら天使。さよなら時間。
うぃぃぃぃん、と機械音は止まらない。
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