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「……声がする」
そこで今まで黙っていた萌黄色の人がそう呟いた。その言葉に他の三人も耳を澄ます。私も黙って探してみると、確かに声がした。それは母の声だった。
「お母さんだ」
「母親か。ちょうど良かった」
「お嬢ちゃん、あーいや、楓ちゃん」
白髪の人が私の前にしゃがみこみ目を合わせる。その顔は真剣だった。
「いいか、俺たちに会ったことを誰かに言っちゃ駄目だからな? 友達にも、お母さんにもだ」
私は首を傾げた。どうして、と呟いて。その時の私は、たった今出会った不思議な四人組を母に紹介する気満々で、ついでに遊んでもらおうというほどに考えていたからだ。
「約束、できるな?」
腑に落ちなかったけど、私は頷いた。母の声が段々と近づいてくる。
「また、会おうね」
去ろうとする白髪の人にそう呟くが、彼は困ったように笑うだけだった。
その四人とはそこで別れた。そういえばこっちは名乗ったのに、相手の名前を聞いてなかったことに気づいて激しく後悔した。約束した矢先、母に言うことも出来ず、ただ悶々とする日々が続く。それから三日後、私は里のみんなに内緒で、一人裏山に向かった。あの四人を探して。一刻にも満たない短い時間を共に過ごしただけだったのに、私はどうしてもあの四人組に会いたかった。一度と言わず、何度でも。せめて名前くらい教えてもらいたい。その一心で、私は里の大人たちの目をかいくぐり、裏山へ足を運んだ。
普段裏山は他の里や大きな村に行くときに使われていたため、人が通る小道はあった。私は昨日母と歩いた道を辿る。山菜を採りに行くのはあの日が初めてではなかったので、道のりは少し頭に入っていた。
昨日彼らと会った開けた場所に出る。辺りを見渡してみるが人のいる気配はなかった。ふと柔らかな風が頬を撫でていく。私は、それにつられるようにして奥に向かって歩いていると、突然足場が消えた。
「え、あっ」
そこは段差になっていて、足元を見ないで歩いていた私はそこに落ちてしまった。段差は家一つ分くらいの高さで私は咄嗟に目をつむった。
「う、ん?」
だが、落ちた衝撃は襲ってこなかった。それどころか、まるで風に包まれたような感覚が体を支えていて、むしろ心地よかった。そっと目を開くと、呆れた色をした紅の瞳が私を見ていた。
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