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「……誰にも言うなとは言われたけど、来ちゃダメだとは言われてないよ」
「屁理屈を……」
抱えていた私を、彼はゆっくりと降ろす。落ちた先には小さな洞穴があった。その穴の周りは全て崖に囲まれていて、私は首を傾げる。こんな場所、裏山にあっただろうか。私がそこに立ち止まっていると、私を助けた白髪の人が手招きをした。
「おいで、どうせ帰れ、って言っても帰るつもりなんてないだろ?」
「ない!」
私が元気に答えると、その人は笑いながら洞穴の中に入っていった。私もそれを追いかける。中には他の三人がいた。私の姿を見るとあからさまに困った顔をしていた。
「この前の子? 一人で来たの?」
黒の羽衣の人が私に笑いかける。私も同じように笑って頷いた。相変わらずの黒を纏った格好を少し眺めて、私は呟いた。
「お兄ちゃんは、何の妖怪なの?」
「え?」
私の問い掛けに、その人の表情が瞬時に凍りついた。他の人も、驚いた顔で私を見ている。唯一、白髪の人だけが笑ったままで、私の頭を撫でた。
「やっぱりもう分かる歳なんだねぇ、いくつなの? 楓ちゃん」
私の名を覚えていてくれたことが嬉しくてすぐにその人に向き直る。
「八つだよ」
「そうか、もう妖気とか分かるんだな」
「うん、里の人が教えてくれたよ。悪霊と妖怪は違うんでしょ? じゃあ大丈夫だよ。里の人も、人を襲わない妖怪なら退治しなくてもいいって言ってたから」
「……お前、陰陽師の里の子か」
私が言うと紅色の人が呟いた。私は頷く。里の子は、幼い頃から多くのことを教え込まれる。私も妖怪や悪霊は気配で分かるようになっていた。
「でも、なんか妖気が薄い気がするから、最初は違うかと思ったけど、お兄ちゃんは妖怪だよね?」
と白髪の人に聞く。その人は笑って「その通りだ」と頷いた。この人たちが妖怪だというなら、不思議な色をしていることも納得がいく。強い妖怪は人間に化けるのも得意らしいからきっとこの人は長命で強い妖怪なのだろう。
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