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なんとなく提案してみると犯人のムチに一発拳骨を入れた鎌鼬が乗ってくる。少し考えたらすぐに案が浮かんできた。
「そうだなぁ、じゃあ烏さんは柊? で、鼬さんは睡蓮かな」
「植物の名前?」
「そうだよ、私とお揃い」
首を傾げた烏天狗に私は微笑む。植物の名前は、木や花に限らず多くのものを知っている。元々、母が植物を好きで、私に色んな植物の名前を教えてくれていたからだ。
「あと、二人は……紅と萌黄だから紅葉と若葉かな」
「結局そのまんまか」
「犬っぽくはないでしょ?」
早速愚痴ったムチ、紅葉に言い返すと「まあな」と呟かれる。素直に嬉しいといえばいいのに、何事も皮肉ってしまう性格なのだろうか。
「んじゃ俺今日から睡蓮な」
「呼ぶか」
「呼べよ」
鎌鼬、睡蓮が楽しそうに笑っている。紅葉や若葉は嫌がっているようだけど。
「ありがとう、楓ちゃん。久しぶりに楽しそうにしてるよ」
「楽しそう、なの?」
私が首を傾げると烏天狗、柊も楽しそうに頷いた。それなら良かった。紅葉と若葉には恐らく嫌われているだろうから、少しでも近付きたいと思ってしまう。私が人間だという時点で、この四人との間には既に壁があるのだから。
「さて、楓ちゃんはそろそろ帰ろうか」
「え?」
紅葉と若葉を茶化していた睡蓮が私の傍らに立つ。
「楓ちゃんのことだし、どうせ里の人には何も言わずに来たんだろ? ならそろそろ帰らなきゃ。捜索されたら俺たちも困るしな」
「ここに来るまでにも結構時間かかってるでしょ? 帰りは僕と鎌鼬さんとで送っていくからさ」
確かにそうだ。ここは結構裏山の奥地で、ここに来るまでも長い時間がかかっていた。長居をすると四人に迷惑がかかってしまう。
「おっとぉ? 柊くん?」
「……じゃあ、睡蓮さん」
二人が話しながら洞穴の外に出て行く。それと入れ替わるようにして、紅葉と若葉が中に入ってきた。
「またな」
すれ違いざま、若葉に頭を撫でられて思わず振り返る。あれは、今日の第一声ではないか。その先では若葉は振り返っていなかったが紅葉がひらひらと手を振っていた。
「またね」
私もそう返す。今の言葉は、つまり、また来てもいいということなのだろう。きっとそうだ。私は睡蓮と柊を追って洞穴を出る。段差に囲まれたそこは、確かに誰かの力を借りなければ出ることはできないだろう。
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