18人が本棚に入れています
本棚に追加
/463ページ
「……」
「まずは自己紹介をしなきゃだね、ちびももちゃん」
あれ。おかしい。
なんかおかしい。
キラキラの毒を放つこの男から逃げてきたはずなのに、なぜ正面に座っているのだろう。
「俺らも昼飯まだだからさ。一緒によろしくね、ちびももちゃん♪」
さりげなく心の中を読まないでほしい。
隣に座るツッコミ役の彼女も冷めた目でそっぽを向いている。
「海斗、腹減った」
今度はリビングから拓海までもが後頭部をガシガシと掻きながら怠惰な動きで出てきた。
結局全員揃うのか。
「(まぁでも……)」
これから一緒に住む仲間たちだ。
しっかり、みんなの前で挨拶くらいはしておかないと。
優依は椅子を引き、その場に立ちあがるとぴし、と背筋を伸ばした。
テーブルにつく3人の視線が一斉に集中する。
背を向けて料理を作る海斗の視線も背中に感じた。
「李木優依です!ドジですが、ド田舎者ですが!よろしくお願いします!!」
耳元で風が鳴る。
緊張が電気のように肌を駆け上がった。
「はいはーい!俺は柿原千秋だよ。かっきーって呼んでね!」
一瞬の静寂のあとに、呑気な声が笑う。
「柚森春香。女同士、よろしく」
「お、お願いします!」
背後でふ、と静かに笑う声が聞こえた。
テーブルに大皿を置く海斗はタイミングを図るのが上手い。
空気が柔らかいものに変わった時。
拓海が吸い込んだ息を吐き出し、背もたれに体を預けた。
「ったく……クルミにナツメ、カキとユズに今度はスモモときた。
ここは果樹園か!はい、この家の名前、果樹園に決定!」
「おお!いいじゃん?何か施設っぽくてカッコいい!」
「じゃあ、果樹園より果樹“苑”の方がいいんじゃない?」
拓海の突飛な提案に千秋が飛び乗り、春香がメモ帳を取り出して“果樹苑”と綺麗な文字で記した。
バラバラなようで、ちゃんと一つにまとまっている。
不安なんてとっくに消えた。
これからこの場所で始まる彼らとの生活に、優依は胸を馳せた。
最初のコメントを投稿しよう!