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バス停から5分ほど歩いた所に目的地はあった。
真叶の後を追ってパーク内に足を踏み入れる。
芝生の感触が靴を通して伝わってきた。
「ほらあれ」
小川にかかる橋を渡りながら、真叶は目の前にそびえ立つ大木を指差した。
幹の上に山が乗っている、という表現は間違っていない筈だ。
横に大きく広がった枝に青々とした葉が茂っている。
その木には見覚えがあった。
子どもの頃、テレビで流れた音楽をよく口ずさんだものだ。
「……!“この木なんの木”だ!」
「正解。“気になる木”の正体はモンキーポッドでした」
樹齢は130年で幹の周りは7メートルあって。
そんな説明を聞いているうちに、健は我慢出来なくなってモンキーポッドの方へ駆け出した。
両手を広げ、幹に抱きつく健。
その後ろをゆっくりと歩いてきた真叶は、健の隣でそっと幹に手を添えた。
木々の間から漏れる太陽の光が心地よく背中を温める。
葉の擦れる音が、波のように耳を擽った。
「なぁ、胴回りが7メートルって事は、あたしが5人いれば1周出来るって事か?」
思ったことを口に出さずにはいられない健は、ふと思いついたことをそのまま言葉に起こし、真叶を振り返った。
彼は目を見開き、健を見つめていた。
ひゅ、と息を吸う音が聞こえたが、吐く音が一向に聞こえてこない。
「真叶……?」
何か変な事を言っただろうか。
不安になって彼の顔を覗き込む。
たっぷり数秒使い、息を吐き出した真叶は、同時に笑みを零した。
眉尻を下げ、どこか泣きそうな、はたまた嬉しそうな、不思議な笑い方だった。
「……君が3人いて、俺が2人いれば、余裕で手が握れるよ」
「えっ……!」
急な発言に、今度は健が言葉を失う番だった。
赤く頬を染めて固まる健の前で、彼はふはっ、と吹き出した。
「ごめんごめん。ちょっとからかった」
「から……かった、って」
「親父の真似をしてみたんだ。だって健、母さんと同じ事言うんだもん。つい」
涙を拭いながら笑う彼は、ふう、と呼吸を整える。
とても優しい表情で、思い出話を始めた。
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