18人が本棚に入れています
本棚に追加
真叶が15歳になった時だった。
家でテレビを見ていると、たまたま日本で制作された映画が放映されていた。
作ったのは無名の監督だったが、真叶はその映画にとても惹かれた。
背景を壊さないよう役者の服や小道具の配色、シーンの雰囲気にぴたりと当てはまった音楽。
全てが真叶を魅了した。
いつか自分も、こんな風に人を驚かせるものを作りたい。
その想いを自分の中に留めておく事は出来なくて、振り返った先にいた父にその想いをぶつけた。
「俺もこんな映画作れるかな?」
しかし、父は想像通りの言葉をくれはしなかった。
「お前には無理だな」
はは、と軽い笑い声と共に返ってきた言葉に、
カチン、ときた。
「俺だって映画監督くらいなれるし……!
少なくとも親父みたいな、すぐに無理とかいうダメな人間にはならねぇよ!!」
どうして、あんなに怒ってしまったのだろう。
とにかくムカついて、勢いに任せて真叶は家を飛び出した。
家出をしたのは初めてだった。
どこに行けばいいのかも分からないまま、近場を歩き回る。
そうしているうちに、スコールが真叶を襲った。
大した雨量ではなかったにしろ道は濡れ、傘を持ってきていなかった真叶もずぶ濡れになった。
身体も冷え、そろそろ家に戻ろうかと横断歩道に足を向けた時。
「真叶!」
横断歩道の向こう側に、父が立っていた。
「ごめんな真叶。あんなに怒ると思わなくて、冗談のつもりだったんだ。でも真叶は本気だったんだよな」
申し訳なさそうに話す父の髪や服も濡れていた。
スコールの中、傘も持たずに息子を探していたのだろう。
「真叶が本気で勉強したいなら、応援する。バックアップも任せろ」
だから、帰ろう。
そう言って横断歩道を渡る父は、真ん中辺りで足を滑らせた。
水溜りに頭から落ち、水しぶきをあげる。
「ったく、何やってんだよ……」
顔を上げてへら、と笑う父に、怒っていたことも忘れ、呆れに笑みを零す。
真叶も横断歩道に足を踏み入れ、父に手を伸ばした。
刹那。
けたたましいクラクションと共に、
父は真叶の目の前で投げ飛ばされた。
最初のコメントを投稿しよう!