海と言ったらメロンでしょう。

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「海斗」 あいつの怒り方はまるっきり小動物だなどと話しながら笑う海斗を呼び止めたのは、スーツに身を包んだ男だった。 優しい面持ちの彼は千秋に忠誠を誓う執事であり、海斗の父親でもある。 「あまり千秋様を怒らせるな。あの方は素直でお優しい方なんだ」 「……素直、な。そうだとしたらあんなに過去をこじらせて周りに迷惑はかけないと思うが」 「海斗」 ふ、と息を漏らして笑う息子を父が咎める。 海斗は皿に残ったハムエッグを口に入れ、ゆっくりと時間をかけて咀嚼した。 「……楽しいんだ、あいつと下らない喧嘩をするのが。 もう壁なんて気にしないで、好きなことを言える。何を言っても大丈夫だと確信できる。 それが嬉しくて、仕方ないんだ」 背後でため息をつくのが聞こえたが、海斗は気にならなかった。 それが、怒りからくるため息ではないとわかっていたから。 「程々にしておけよ。千秋様を傷つける者は息子だろうと容赦しないからな」 「肝に命じておきます、お父様」 嫌味ったらしく吐き出して立ち上がる海斗。 衣音も慌てて席を立った。 食堂を出ようと足を向け、出口の前で立ち止まる。 思い出したように海斗は父親を振り返った。 「住み込みの専属執事もいいが、たまには休暇くらいとって家に帰れよ。嫁が出ていく前に」 「余計なお世話だ。お前こそ、大学が休みの時くらい帰ってやったらどうだ」 「悪いが俺は無理だ」 に、と父親には見せたことのない笑顔を見せる。 「今俺には、家より大事な“家族”がいるからな。家の事は兄貴に任せる」 それだけ言うと、父が何か言い返す前に彼女を連れて食堂を後にした。 棗は空いた皿を片付けながら、まったく、と息を吐いた。 「(あんなに表情の豊かな海斗を初めて見たかもしれない)」 彼のいう“大事な家族”とやらが、彼を変えたのだろうか。 いずれにしろ、近々休暇をとることになりそうだ、と棗は苦笑を漏らした。
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