「す」の次にくる言葉

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1時間ほど作業を続けたところで、健が扉を叩き開けて姿を現した。 茜から大方の話は聞いているのだろう。 床に横たわる優依と、直された衣装を交互に見る。 物音に反応し、優依が身体を起こした。 眠そうに目を擦り、入口に健を見つけると、はっと顔をしかめた。 「健さん……!ごめんなさい。私……っ、直したんですけど、元通りにはならなくて……」 「……」 謝る優依の脇を通り過ぎ、健はしばし無言で衣装を見つめた。 彼女が何を言い出すのか、海斗も静かに見守る。 健が息を吸い込む音が、やけに大きく聞こえた。 「ほんと、こんなつぎはぎの衣装で接客なんてしたら、学生自治会の株が落ちるだろうな」 「っ……」 「……」 息を詰める優依を視界の端に置きながら、海斗はまだ健を見据えた。 まだだ。 続きがある。 海斗の読み通り、健はくるっと優依の方を振り返った。 「文化祭まであと3日しかねえ。私1人でまた1から作り直してたら到底間に合わねえ。衣音にも手伝わせるけどそれでも間に合うかわかんねえ」 「……っ」 「……でも、海斗と会長にとって最後の文化祭だからさ。絶対失敗させる訳にはいかねえんだ。 さんざん優依のこと貶した奴の言うことなんて聞きたくないだろうけど」 空気を切る音がした。 勢いよく頭を下げた健を、優依は驚いたように見つめる。 「頼む……手伝ってくれ……!3人いれば、間に合うと思うんだよ」 下を向いているから顔は見えないが、健の声は微かに震えていた。 「……何から始めればいいですか」 「……!」 顔を上げた健のまつ毛は少し濡れていた。 優依はニコリと笑って健を見上げる。 「教えて下さい。衣装の作り方」 「……っ、おう。モタモタしてらんねぇぞ。3日間徹夜する覚悟でやるからな……っ」 「はい!」
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