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「おわっ………たぁぁー!!」
文化祭本番当日。
窓の外に太陽の頭が見え始めた頃、健の叫び声が室内に響いた。
床に端切れや糸くずが散らばる部屋に並べられたマネキンは、再びウェイトレスの衣装を着せられ、誇らしげに日の出の光を反射する。
優依と衣音も抱き合って衣装の完成を喜んだ。
「2人とも、悪かったな。ギリギリまで付き合わせちまって……ダメになったイラストを描き直す暇もなかっただろ」
メインはカフェだからと、優依と衣音は自分達のイラストの展示を諦めて衣装作りに取り掛かった。
2人は顔を見合わせ、ふ、と笑う。
「いいんです。私達はまだ1年だから、文化祭はあと3回もあるし」
「才能を買ってくれるお偉方の目には、来年から留まるように努力しますから」
「その事なんだがな」
がら、と学生自治会室の扉が開き、何やら丸めた紙を手にした海斗が姿を表した。
女子トークを邪魔して悪いな、と真顔で言いながら、持っていた紙を広げる。
それは、ポスターだった。
「ちょっと、手を入れさせてもらった」
ポスターには、「喫茶エーデルワイス」と「学生自治会室」の文字。
そして見覚えのあるイラスト。
「これ……優依ちゃんの絵……」
「あぁ。あいつらが1枚だけ何も描かないでおいてくれて助かった。
お偉方の目に留まるチャンスはまだあるぞ」
「で、でも」
何か言いたげな優依の口を塞ぎ、うるさいと呟く海斗。
ポスターに書かれた喫茶の名前を指した。
「エーデルワイスの花言葉は、『大切な思い出』だ。俺達は評価より、お前達と過ごす楽しい文化祭の思い出が欲しい。
俺と茜のためにって言うなら、笑って終わらせられる文化祭をくれ」
「海斗さん……」
「ほら、文化祭開会まで時間ないぞ。今のうちに寝て、目の下のクマを消しておけ」
朝日が昇る。
文化祭が、始まる。
最高に楽しい文化祭が。
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