神さまあんまりだ

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「いらっしゃいませ、喫茶エーデルワイスへようこそ!」 学生自治会の運営ブースは盛況だった。 それもそのはず。 こちらにはキャンパス内人気ナンバー1とナンバー2がいるのだから。 今もナンバー1は女性客に愛想を振りまきながらサインと握手をし、ナンバー2は涼し気な笑みを浮かべてシェフ兼ウェイターの仕事をこなしている。 店内と店の外に出来た行列共に、ほとんどが女性客。 そんな中で、順番を迎えて店内に入ってきたのは、スーツを羽織った恰幅のいい男性だった。 年齢は40代か50代といった所だろうか。 「いらっしゃいませ。喫茶エーデルワイスへようこそ。 お先にご注文を承っています」 とても学祭を楽しみに来た雰囲気ではない様子を不思議に思いながらも、優依は先程から何度も繰り返してきたセリフを述べながらメニュー表を渡した。 しかし彼はメニューには目もくれず、優依をまっすぐに見据えて口を開いた。 「宣伝用のポスターを描いた学生はここにいるかね」 ドクンッ、と鼓動が跳ね上がった。 その一瞬で、優依は気づいてしまったのだ。 彼はただの客ではない。 “才能を買ってくれるお偉方”だ。 「あ、あの、わたし、です……!イラスト学科1年、李木優依です!」 噛みそうになりながら、なんとか自己紹介をする。 まさかこんなに早く、チャンスが来るなんて思っても見なかったから、心の準備をしていない。 「そうか。1年であの絵を…… 君のイラスト、もっと他のものも見てみたい。 時間がある時に連絡を」 男性はそう言って名刺を手渡し、それを伝えたかっただけだから注文は結構だよ、とだけ言って店内から出ていってしまった。 渡された名刺に書かれた文を一つ一つ目でなぞる。 “株式会社F-ANGLE” “代表取締役社長” “平山 正義” 「やったじゃん優依!」 不意に背後から健に飛びつかれ、優依は軽く噎せた。 衣音も嬉しそうに駆け寄ってくる。 「今の人、F-ANGLEの社長さんだよね」 「F-ANGLE?」 「優依、知らないのかよ?今1番有名なゲームイラスト制作会社だぜ。 制作実績は年間で1000件以上らしい」 「確か、ファースト・ファンタジアとかアイドル5にも関わってるよね」 聞けば聞くほど、凄い会社らしい。 そんな会社のトップに自分の絵が認められたことに、優依は期待と少しの不安を抱いた。
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