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とりあえず近場のブースで買ってきたたこ焼きで昼食を済ませ、優依はキャンパスのあちらこちらを思い浮かべた。
学園祭という大きな看板を掲げた今日は、どこも客だらけ。
そんな中で拓海が出した条件は、人が居なくて静かで落ち着いている所。
「……どこだそれ」
全く思い当たらない。
今でこそ中庭に人影は少ないが、後30分もすれば昼食を持った人が集まってくるだろう。
午後になれば客は増えるだろうし、人がいない場所なんて存在するのかも微妙なところだ。
うーん、と唸る優依をしばし見つめていた拓海が、ふと顔を上げ、頭上を指した。
「あそこは?」
「え?ああ、屋上……」
確かに屋上なら人はまず来ないだろう。
普段は学生が愛用する憩いの場とも言える場所だが、今日は皆学園祭に夢中だ。
「じゃあ、行きましょうか」
「おう。あそこは人の気配がなくていい」
「エスパーか」
ツッコミを入れながら、ベンチから立ち上がってさっそく屋上に向かう。
拓海の読み通り、屋上は学園祭の賑わいが嘘のようにしんとしていた。
まるで、世界が切り離されたように。
「すごい。ここからキャンパス全部見渡せますよ。屋外ブースってこんなにあったんだ」
フェンスに身を寄せ、優依は感嘆の声をあげる。
屋台を上から見下ろすのは、なかなか出来ない体験だろう。
ふと、背後に気配を感じて振り返った彼女は、声を詰まらせた。
優依のすぐ後ろに立っていた拓海が、彼女を閉じ込めるようにフェンスに手をかけ、目を閉じて首を傾けていた。
すんでのところで後ずさった優依の背中がフェンスにぶつかり、ガシャン、と音を立てる。
その音に目を開けた彼は、不満そうに優依を見据えた。
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