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息のない少女に必死に手を伸ばし、助けようと望みを捨てていない少年が必死に這っている。
無意味な行為を無表情で見つめる男。
その懸命な姿に心を打たれでもしたのか、あるいは部下の後始末をしなければという責任感からなのか、唯一、少年と少女の結びつきを残せる方法をとる事にした。
「……軍規違反だよなぁ」
柄にもない事すんじゃねぇよ、と心の声が聞こえてきそうな苦悶の表情を浮かべる。
「でもよ、こんな子どもたちが終わりを迎えるなんて、いくら何でも早すぎるだろ。しっかり生きてくれなきゃよ」
横たわる2人に向かって両手をかざすと、まばゆい光があたりを包み込む。
神から放たれた霊子に満たされた空間の中で、霊子の働きにより活性化した細胞が遊星の傷を瞬く間に修復していく。
「少年、聞こえるか?」
* *
遊星は声のした方に顔を向け、次第にクリアになっていく映像に固まってしまった。
その男の常人ならざる姿に形容するべき言葉が見つからない。
『翼が生えている?本物なのか?……そもそも人間……じゃない』
考えれば考えるほど訳が分からなくなってしまう。
ぱくぱくとまるで金魚の真似でもしているかの様子に、さすがに見かねた男が口を開く。
「驚くのは結構、だが良いのか?少女の方は……」
最後の言葉ではっと我に返り、楓に駆け寄りながら震える声で呼びかける。
「楓!おいっ、返事してくれよ!」
触れたいっ、しかし、触れるとそのまま壊れてしまいそうな錯覚にとらわれる。
……いや分かってる。
結果はどうしようと変えられないことくらい見れば分かる。
ためらいがちに手を伸ばしていく。あとちょっと、もう少しで指先が頬に触れる。
覚悟を決めたそのとき。
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