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先輩と一緒にせっせとお茶の準備をしていたのだが、後ろの方からドアの開かれる音がしたので振り返ってみる。
すると、入り口を跨ぐ格好で立っている小柄な少女が目に映った。
見た目は小学生くらいだろうか、真っ赤なランドセルや黄色い帽子が似合いそうである。
でも、どうして子どもがこんな所にいるのだろうか。
小学校はもう始まっていると思うし、そうだとしたら学校は朝だけで終わって、その後急いでここに向かったことになる。
ならば、それなりの目的があるはずだ。
しばし黙考、といっても数秒だが。
……なるほど、分かりましたよ、先輩。
妹さんが来るなら事前に言ってくれれば良かったのに。
鈴先輩に頷いて見せてから、コミュニケーションを取ろうと入り口に立つ女の子の前へ。
「お姉ちゃんに会いに来たのかな?よく迷わずに来れたね、えらいぞー」
よしよしとその子の頭を撫でながら後ろを振り返り、先輩に確認する。
「この子の名前はなんて言うんですか?」
しかし先輩の表情は笑顔ではなく、恐怖に引きつっていた。
予想していたものとは違う反応。
刹那の思考の後、自分の犯した過ちに気づく。
そうか、この子は人見知りだったのか。
いきなり知らない人、しかも男に頭なんか触られたらそりゃ怖いよな。
まずい、とにかく泣き出してしまう前に先輩にバトンタッチしないと。
謝るのはとりあえずこの子が落ち着いてからにしよう。
そう思い、先輩に妹さんのことをお願いするために立ち上がろうとしたのだが、腕を強く引っ張られたことで大きく仰け反ってしまう。
どうしたことだ、俺は引き止められてるのか。
もしかして意外と好かれてたりして。
そんな期待とともに少女の方に振り向いた俺は、少女の顔をぼかしてしまう程の淡い黄色の光に迎えられた。
あれ?
息ができ……な……い。
次第に薄れる意識の中で、最後に聞こえて来たのは女神の囁きではなく、怒り狂った怒号だった。
「なにすんじゃ!このハレンチもんがっ!」
辺りを包み込む心地いい光にふさわしくない台詞に、俺は心の中で反論した。
少女の頭を撫でただけなのに……。
悲痛な叫びとともに、視界は闇の中に落ちていった。
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