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「それじゃ出掛けてくる」
必要最低限な荷物を持ち、浮き足立った心を落ち着かせながら声をかけた。
出来るだけさりげなく、しかし迅速に、我が家から逃走を試みる。
「え、お兄ちゃんどこか行くの?」
「…………」
……聞こえなかったフリは一度まで。
歩みを早め、玄関で今日のために準備した靴に手をかける。
「ちょっとお兄ちゃん?」
「……何だよ急いんでんだけど」
捕まってしまった……。
すぐさま逃げ出せるよう、靴を履きながら顔を妹の方へと向ける。
「どこか行くの?」
「あぁ」
「今日クリスマスだよ?」
「それがどうした」
「毎年『カップルのイチャイチャホヤホヤ顔なんて見たくねぇ』とか言ってこたつにこもってるのに」
「買い物行くだけだよ」
「そんなにオシャレな格好して?」
「俺は普段からオシャレだよ」
「昨日丁寧に磨いてた靴を履いて?」
「俺は普段から足元には気をつけ……おま、見てたのかよっ」
「ふふーん」
妹が得意げに靴を履いてる俺を見下ろす。
こいつ、目ざとさだけは一級品だな。
「ありがとう、ごめんなさいは言葉にする。嫌そうな顔はしちゃダメだけど、笑顔は包み隠さず!だよ」
「はぁ?」
「お兄ちゃんは鈍ちんだから、気持ちをなかなか言葉にしないこと、表情乏しいことを頭に入れておいてね」
「うるせ」
荷物を持って立ち上がる。
時間には充分余裕があるけれど、こいつの意見を聞く時間を取るつもりはない。
「ちょっと待って」
「なんだよ」
「んっ」
妹が手を伸ばして俺の髪に触れる。
何事かと思ったら、髪を整えてくれてるようだ。何だかむずがゆい。
「今日ぐらいワックスとか使ったらいいのに」
「俺の主義じゃない」
「あっそ」
急にしけた顔をして妹は家の奥へと帰ってゆく。
心の中で不満を漏らしながら扉を開く。
冷え切った空気が、服の上から身体に吹き込んできた。
思わず身体が縮み上がる。
「いってらっしゃい。頑張ってね」
寒さに耐えながら振り返れば、ニヤニヤニヤニヤ。
そんな顔が目に入って、ぶっきらぼうに扉を閉めた。
「……くそったれ」
だからクリスマスは嫌なんだ。
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