魔法使いのかくしごと

10/14
前へ
/14ページ
次へ
 いつの間にか考えに没頭していた彼女は、建物の陰から出てきた男性に気づかず、肩がぶつかってしまった。  「イッテェなぁ、おい!」  「…すみませんっ」  ハンナは反射的に謝ったが、相手はキョロキョロと辺りを見回している。  「…あの」  「謝りもしないでどこへ逃げやがった。素早いヤツだな」  「……………」  ハンナに気づかなかった男性は、怒りをあらわにその場を去って行く。  「……………」  一方、打って変わって口をつぐんだハンナは、しばらくそこに立ち尽くしていた。  やがて歩き出した彼女は、ミランダの兄弟子宅へは向かわずに踵を返し、トボトボと元来た道を帰って行った。  太陽が南天高くに届いた頃、ミランダは魔法薬の材料を抱えて帰宅した。  真っ直ぐに仕事部屋に入ろうとしたところで、中から女の子の泣き声がするのに気づいた。  開いていた扉からそっと覗いてみるが、誰もいない。  どこから聴こえてくるのかと見回したミランダは、奥の壁の前に見えたものに驚いて青ざめた。  「……もしかして、ハンナ?」  涙に濡れた瞳が大きく見開かれてミランダを見る。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加