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いつの間にか考えに没頭していた彼女は、建物の陰から出てきた男性に気づかず、肩がぶつかってしまった。
「イッテェなぁ、おい!」
「…すみませんっ」
ハンナは反射的に謝ったが、相手はキョロキョロと辺りを見回している。
「…あの」
「謝りもしないでどこへ逃げやがった。素早いヤツだな」
「……………」
ハンナに気づかなかった男性は、怒りをあらわにその場を去って行く。
「……………」
一方、打って変わって口をつぐんだハンナは、しばらくそこに立ち尽くしていた。
やがて歩き出した彼女は、ミランダの兄弟子宅へは向かわずに踵を返し、トボトボと元来た道を帰って行った。
太陽が南天高くに届いた頃、ミランダは魔法薬の材料を抱えて帰宅した。
真っ直ぐに仕事部屋に入ろうとしたところで、中から女の子の泣き声がするのに気づいた。
開いていた扉からそっと覗いてみるが、誰もいない。
どこから聴こえてくるのかと見回したミランダは、奥の壁の前に見えたものに驚いて青ざめた。
「……もしかして、ハンナ?」
涙に濡れた瞳が大きく見開かれてミランダを見る。
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