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空から人が降ってきた、なんて物語では定番だけれど、それが自分の前で実際に起こったら、君はどうする?
――君は笑いながら僕の日常を切り刻んだ。
――――
「宇宙に行ってみたいと思う?」
こう言ったのはミドリ。
肌が森林の模様だからミドリ。
「行ってみたいとは思うけど」
名前を付けたのは僕だけれど、僕とミドリの関係では確実にミドリが上だ。
上の者が下に名前をつけるという常識を、とっくに僕は捨てている。
「じゃあ、ハンドルは持ってる?」
ミドリは月から降ってきた。
あの日から僕は僕を信じられなくなってしまった。
「もっと小さくて柔らかいものなら持ってるよ」
ミドリは、月から降ってきて、笑顔で非日常を落としてきた。
固くて重い、スプーンのようなもので、すくうように、星を崩して。
それをミドリはハンドルと呼んだ。
そしてその行為を食事と呼んだ。
「柔らかいなら使えないわね」
星は星を食べる。
この星はそれが上手くできない。
ミドリはこの星に食事をさせるためにやってきたのだと言う。
ミドリは食事で、多くの生き物を殺した。
僕の常識はミドリに通じないから、ミドリはいつでも笑顔だ。
「あのさ、やっぱり、見るだけでいいんだ。手伝えないけど、連れていってくれない?」
ミドリは死んだ姉によく似ている。
ミドリが殺した、僕の姉によく似ている。
だから顔を見る度に、姉のことを思うのだ。
「手伝って欲しいなんて思ってないよ。」
ミドリに何をしたら死ぬのだろうか。
ミドリに会ってから、そればかりを考えていた。
常識が通じないミドリが、僕が思う方法で死ぬとは思えなかった。
「じゃあ、月まで飛んでいこうか」
ミドリは靴底に風を埋め込んで、どんな空も自由に飛んだ。
僕が履いている靴にも同じように風をくれた。
さあ、ミドリを殺しに行こうか。
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