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捜査(捜索?)を続けるうちに、おかしなことに気づいた。
だれも、彼女を名前で呼ばないのだ。依頼人である、彼女の友人を除いて。
そしてまた、彼女の友人のことを、だれも名前で呼ばない。
もしや、という予感が、僕によぎった。
(もしかして、誰にも見えないっていうのは……)
彼女は、全てを話してくれた。
存在しない人物に扮して、失踪を演じた理由。その、全てを。
「誰々さんの娘、誰々の姉、妹、何処何処の学校の生徒さん。社員さん。何々さんの部下。誰も、名前で呼んでくれませんから。わたしのこと」
寂しそうに言った彼女は、ずっと、どこにも自分が存在しないような、透明人間になったような不安に襲われていたのだという。
そして、作戦決行。
姿も、変えず、名前だけ変えて、彼女の失踪を心配する友人を演じていた。
そして、誰もそのことに気づかなかった。写真を見た、僕も。
「わたしと同じ肩書きを持った人であればいいのなら、わたしでなくてもいい。と、証明されてしまいましたね」
残念ながら、と悲しそうに呟いた彼女は、最初、友達に扮して僕に自分探しを依頼する予定はなかったらしい。
しかし、周囲の誰からも、自分がいなくなったことに気づかれなかった。
まるで、最初から彼女という人物は、どこにも存在していなかったかのように。
「なるほどね。確かに、聞き込みでも、初めて知ったみたいな反応ばっかりだったしなぁ」
彼女は、これから、どうするのだろう。
尋ねてみたが、ただ、困ったように笑うだけだった。
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