第1章

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ずっと待ってるから そう言い残して彼女はいなくなった。 朝、いつものように出かけるとき彼女は僕を引き留めた。 今日はデートをしよう、時間は仕事が終わったら連絡するから。 彼女からの誘いは珍しく、僕は少し嬉しかった。 僕の方も仕事が終わり、彼女からの連絡を待つ。 家に帰らずスーツのまま本屋で時間をつぶす。 待ち合わせっぽさを出すために家には戻らないで欲しいとの事だった。 1時間ほど時間をつぶしても彼女からの連絡は来ない。 いつもならこの時間になれば仕事は終わっているはずで、不安に駆られた僕は彼女に電話をかける。 長い長い呼び出し音のあと、不在を知らせるアナウンスが流れる。 メールを入れても返事がない。 何か事件に巻き込まれたのかもしれないと思い、急いで家に帰る。 家に行けば彼女の職場の連絡先もある。 そして家に着き鍵を開けると、部屋がすっきりしていた。 いや、すっきりし過ぎていた。 そこにあるのは僕の物だけ、彼女の物だけが一切なくなっていた。 何がどうなったのか理解出来ないでいるとメールの着信で携帯が震える。 はっとして携帯を開くとそれは彼女からの通知だった。 しかしそこには一言だけ。 さよなら。 その場で立ち尽くし、ようやく理解した。 出て行ったのだと。 ずっと待ってるからと言った彼女の顔は、照れているのではなく困っていたのだろう。 僕と居て笑ってくれていたのは、同情だったんだろう。 本当に楽しかったのは僕だけで、彼女はずっと考えていたんだ。 このままで本当に良いのかと。 そして、今日、僕の前から居なくなった。 彼女の変化に気づいてあげられたら、僕には何か出来たのだろうか。 着替えてないとか疲れたとか、何もなくベッドに倒れ込む。 急にいなくなった寂しさだけが僕を埋めていた。 ?????? どうやら眠っていたらしく、電話の着信音で目が覚めた。 慣れとは怖いもので、どんなに精神的に参っていても思わず電話を取ってしまう。 もしもし、と言う前に電話口から彼女の声。 何も理解できず黙っていると、メールちゃんと見たのと、彼女は言う。 さよならと書いてあったと言うと、しばしの沈黙。 スクロールよろしく、と言って彼女は電話を切った。 何なのかわからないが、メールを開き、スクロールしていく。 空白だと思っていた部分が、流れていく。 一番下には、レストランの名前が書いてあった。
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