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彼女は、僕に包丁を突きつけながら、話し続けた。
それは、自分自身の過去を自分で振り返っているようだった。
「健ちゃんに話しかけられて、とても驚いたわ。私が見える人は、あなたが初めてだったから。多分霊感が他人より強かったのね。一緒に授業を受けた、この半年間は、とても楽しかった。」
僕を見つめる彼女の瞳は、嘘をついているようには見えない。
「いつか私の正体に気付いて、健ちゃんを驚かせてしまうと思った。私の気持ちは、まだ高橋教授に向いていたし、何より私、この教室から出る事が出来ないから。」
彼女は、包丁を強く握りなおす。
「この教室から出ようとしても、教授に対する愛がそうさせなかった。教授が、この教室で女子生徒と関係を持つのも、すぐ横で見ていたわ。触れる事も出来ないで、ただ泣いていた。」
教室で泣いていたあの日のことだ。
「健ちゃんが、優しく慰めてくれたよね。ありがとう。あの時から、私の中で、あなたという存在が大きくなっていったんだよ。」
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