初恋

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僕は、彼女を諭すように言った。 「真夏の教授に対する気持ちは気付いていた。でも、それはもう終わった事なんだ。」 彼女は、包丁を僕に突きつけたままだ。 「君が、地縛霊なんていうのは信じないよ。君は確かにリストカットをした。ただ、あの日君は死ななかったんだよ。」 彼女の瞳が、大きく開いた。 「教室で教授に振られてしまった事と、その時の出血が原因で、君は少し脳に障害が出来てしまったんだ。」 彼女の包丁を持つ右手が小刻みに震えだした。 「何故あなたにそんな事が分かるのよ!」 「分かるさ。君が自殺をしようとしてリストカットをした時、僕は、君の側にいたんだ!」 「嘘よ!私は、地縛霊なの。私の存在なんて誰も気付かないし、私はこの教室から出れないんだから!」 ドン!彼女は机を叩いた。 「違う。みんな、君の存在には気付いていた。高橋教授もね。君が、脳に障害を持ってしまった事に、教授はとても責任を感じていた。この3年半、どうにか君の障害を治そうと必死になってリハビリを行った。そう、この授業というカリキュラムは、全て君のリハビリの一環だったんだ。 しかし、君は、ずっと自分を地縛霊だと思い込んでいた。 毎週木曜日の授業が終わると、君は、この教室以外の記憶を無くし、ただ、教授への気持ちだけが、ずっと残ってしまった。」 彼女の目は焦点が定まらない。 「あのキスは、君の教授への気持ちを断たせる為の演技だ。 わざとキスシーンを演じてもらったのも、君の親友だった智子だ。 智子は、今でも君がこの障害を克服すると信じて、一緒にこの3年半のリハビリに参加してくれたんだ。」 その言葉と同時に、教室の電灯が一斉に点いた。 バタン!教室のドアが勢い良く開くと、そこには、高橋教授がいた。その後には、教授とキスをしていた智子の姿もある。 「い、一体どういう事なの…!」 真夏は、何が起きているのか分からず、呆然と二人の姿を見つめた。
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