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「真夏!一体何をしているの!」
智子が叫びながら、真夏に走りよると、勢い良く真夏の頬を叩いた。
ぴしっ!
大きな音が、教室に鳴り響く。
その音と同時に、真夏の隣の椅子に何かが、落ちる音がした。
ドタッ。
「真夏!教科書に、包丁なんか突き刺さしてどういうつもり?」
真夏が、包丁を刺した物体を見ると、それは、紛れもなく、英文学の分厚い教科書であった。
「け、健ちゃんは?どこ?」
真夏は、辺りを見回す。
さっきまで、すぐ側にいたはずの健ちゃんはいない。
「地縛霊の次は、切り裂きジャックにでもなるつもり?まだリハビリが必要みたいね。」
智子はため息をついた。
「ただ、もう教授に対する気持ちは無くなったみたいです。健ちゃんって呟いています。」
高橋教授が落ちた教科書を拾い上げた。
「健ちゃん?この英文学の教科書に出てくるケングリムウッドの事かな?」
智子は、また大きなため息をつく。
「まだ、真夏の病気は治らないのね。ただでさえ、自分を地縛霊だと思い込んでいるのに、次は、教科書を人間だと…。」
「まあ、来週もう一度経過観察してみよう。今日のところは、この物騒な物は回収しておくとするか。」
呆然とその場所に座りこんだ真夏を尻目に、高橋教授と智子は、包丁を回収し、教室を出て行った。
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