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教室のドアが閉まると、教室には、真夏だけになった。
一体、自分はどうなってしまったのだろう。
真夏がふと横に目を見やると、真ん中が切り裂かれた分厚い教科書が置かれている。
「健ちゃん?」
そう真夏が呟くと、どこからか、声が聞こえた。
「真夏。僕は、ここにいるよ。」
真夏は、頭上を見上げた。しかし、誰もそこにはいない。
「け、健ちゃん?どこにいるの?私、驚いたわ、あなたを刺したと思ったのに、教科書に刺さっていて…。それに、私は地縛霊なのに、智子や、高橋教授まで、私が見えていた…。」
真夏は、困惑した表情で頭上を見上げたが、声がする方には、誰もいない。
教室のライトが光を放っているだけだ。
「健ちゃん?あなたどこにいるの?」
手探りで頭上を掴もうとする。
「真夏。落ち着いて聞いてくれ。」
「わ、分かったわ。落ち着くから、少し待って。」
真夏は、ゆっくり深呼吸をした。
「真夏。君は地縛霊なんかじゃない。そこまでは、良いね?」
真夏はまだ深呼吸をしている。
「う、うん。私は、地縛霊なんかじゃない。分かったわ。そういう事にしましょう。」
胸に手を当てて、心を落ち着かせようとしている。
「君は、教授への気持ちから、自分は地縛霊だと思い込んだ。しかし、君は、徐々に、教授への気持ちが冷めていき、僕への気持ちが強くなった。」
「そ、そうね。私、健ちゃんみたいに一緒に授業の予習をしてくれる人が、本当は、欲しかったの。あなたがいてくれてとても助かった。」
真夏は、どこからか聞こえてくるその声の方向に呟く。
「健ちゃん、早く側に戻って来て。」
「もう、側にいるよ。」
「え?」
真夏が、あたりを見回した。しかし、近くには、教科書があるだけだ。
「そう。僕は、どんな時も君の側にいた。僕は、君が作り上げた幻霊だったんだ。」
「そ、そんな…。」
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