初恋

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「真夏…。」 僕は、どんな言葉を掛ければ良いのか分からず、呆然と立ち尽くしていた。 広い教室には、彼女と僕の二人きり。 彼女の泣き声が虚しく響く。 ただ、見守る事しか出来ない。 僕は、彼女の隣に座って肩を抱きしめた。 彼女はそっと僕の胸の中で泣いた。 「事情は知っているみたいだね…。残念だけど、教授は大学を辞めてしまった。」 彼女はうつむいたままだ。涙は、止む気配が無い。 「そんなに落ち込まないで。勉強なら、ここだけじゃ無くても、どこだって出来るよ。俺で良ければ、真夏の力になりたい。」 彼女は、ふと顔を上げた。目は赤く充血していて、どこか視線が定まっていない。今にも倒れてしまいそうだ。 教室には、彼女の泣き声だけが響き、僕は、それを見守る事しか出来無かった。 僕は、とうとう彼女に対する気持ちが抑えきれなくなっていた。 「真夏の悲しむ姿はこれ以上見たくない。 僕は、君の笑顔が、大好きだ。 僕と付き合ってくれないか。」 彼女は、驚いた表情で僕の顔を見つめた。 先程までの泣き声が嘘のように、涙は止まり、沈黙が教室を包みこんだ。 ……。 すると彼女が、そっと僕に呟いた。 「私の為に、命を賭けれる?」 僕は、その言葉に少し戸惑いを覚えながらも、大きく頷いた。 「ああ、僕は君の為にこの人生を賭けても良い。」 彼女は、僕の顔をじっと見つめながら、バックに右手を伸ばした。 ガサガサと何かを探している。 「どうかした?もしかして、ついに連絡先を教えてもらえるのかな。」 僕は、ついに連絡先を交換出来るのだと胸が高なった。 彼女は、右手の動きを辞めて何かを見つけた。 「ようやく、連絡先教えてくれる気になったんだね。」 しかし、彼女がバックから取り出した物は、携帯電話では無かった。 それは、薄暗い教室の中でも、はっきりと分かる、大きな包丁であった。
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