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「指輪は、誕生日の朝にはめて。」
プロポーズしたあの日、
ユキは、
リングケースの指輪は、婚姻届を出すその日までのお楽しみにして欲しいと言った。
まさか、指輪を一目も見ることなく
君がいなくなるなんて
想像するはずもないじゃないか。
ユキの亡骸は、まるで眠っているかのようだった。
「ユキ・・・
ヘンな奴にナンパされないように、
ちゃんとこれ、着けていけよ。」
体温を無くした冷たいユキの手を取って、
エンゲージリングを左手の薬指にそっとはめた。
「わぁ~!可愛い!
トオル、ありがとう!」
ユキが、そう言って起き上がるんじゃないかと・・・
目を覚まして欲しいと思った。
「トオルくん・・・ありがとね。
でも、そろそろ、ユキを送ってあげないと・・・」
「・・・はい。」
ユキの母親に、そっと棺桶から離れるよう促され、後ろに下がる。
カタチのあるユキの、最期の瞬間。
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