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水族館は他の客と距離を開けられるのがいい。
大水槽の前に立って、彼女はエイを見る。
俺は、ガラスに映った赤い唇を見ていた。
鎖骨の見えるニット
大きな襟のコート
揺れるピアス
ピンクのバック
若い。
「タナカさん、魚が好きだったの?」
「……特にそういうわけじゃ」
「でも、初デート水族館だったんだ?」
次の水槽に移る。
珊瑚の中に隠れている魚を探す。
腰を屈める。
思いの外、顔が近づいたけれど離れるのも不自然な気がして、意識だけそらす。
「私も、中学生の時に。
水族館。
緊張しすぎて息がつまるような感じしか覚えてないけど」
「うん」
「夜行性の水槽のところで、相手は慣れてたんだろうけど
キスされて」
「すごいね。僕はそんなこと出来なかった」
「ね。今思うと悔しいですけど」
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