第二回【Mの視】

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水族館は他の客と距離を開けられるのがいい。 大水槽の前に立って、彼女はエイを見る。 俺は、ガラスに映った赤い唇を見ていた。 鎖骨の見えるニット 大きな襟のコート 揺れるピアス ピンクのバック 若い。 「タナカさん、魚が好きだったの?」 「……特にそういうわけじゃ」 「でも、初デート水族館だったんだ?」 次の水槽に移る。 珊瑚の中に隠れている魚を探す。 腰を屈める。 思いの外、顔が近づいたけれど離れるのも不自然な気がして、意識だけそらす。 「私も、中学生の時に。 水族館。 緊張しすぎて息がつまるような感じしか覚えてないけど」 「うん」 「夜行性の水槽のところで、相手は慣れてたんだろうけど キスされて」 「すごいね。僕はそんなこと出来なかった」 「ね。今思うと悔しいですけど」
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