第三回【Cの溶】

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『 在る 有る 或る ……ある女、その存在は私にとっての理想であり永遠のテーマだと言えます』 代表作「ある女」シリーズについて、倉橋アユムがそう語っている。 個展のパンフレットには、女体の一部分をモチーフにした作品が載せられている。 しなやかな指 悪戯なくるぶし 清廉な鎖骨 溶解する乳房 切り取られた一部分が釉薬に溺れ快楽を咲かすように 作品群は そこにあった。 その圧倒的な美と、モデルの人生は真逆だった 作家との蜜月は贅沢で研磨するようなもので、元の暮らしを毛羽立たせてしまうそうだ。 死んだ三人以外の女性も平穏な幸せとは遠かった。 「先生は女の人のきれいなところを吸いとってしまうような、土をさわっている時は恐ろしいんですけど……その他はとても優しいです」 飯田ますみは、そう言ってにっこり笑った。髪を耳にかけたときに肘の内側に黒子が見えた。
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