1章 ありふれたこと

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家族で写真を撮った時のことを、 思い出していた。 あの写真…どうしたっけ? 父さんが、急に撮りたいって 言い出して、家族全員が庭に集められて 写したやつだ。 カメラを構え、シャッターを押そうとした、 父さんが言った。 「あれ?智樹は?」 大学の試験勉強をしていた兄は、 昨日の夜、遅くまで勉強してた。 だから、兄は、まだ部屋で寝ていて、 無理矢理起こすと、不機嫌になる。 「千尋?悪いけど…」と、 懇願するような顔の父さん。 この頃のお兄ちゃんは、 父さんとあまりうまくいってなかった。 「えーっ」また、損な役回りだ。 「行ってらっしゃい」とママが後を押す。 仕方なく私は、 兄の部屋のドアをノックする。 取り合えず…2回。 そんなもんじゃ、起きないのは、 わかってる。 兄に、仏頂面された上、 後で文句を言われたくない私は、 兄の部屋に入ることなく、庭に戻った。 「智樹は?」 「ダメ…全然起きない」 「仕方ないな…おいで、千尋」 写真は、3人で撮った。 私は、後になって、 兄を、あの場に呼んでこなかった事を 死ぬほど後悔した。 これが、父さんと撮った 最後の写真になってしまったから。 私は、兄から家族で写真を撮る、 最後の機会を、奪ってしまったんじゃないかと、ずっと、後悔してる… その事が、ずっと心に残っていた。
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