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"ずっとお待ちしております"
戦禍を逃れる為に先駆けてこの都を離れる私が、貴方にそんな事を言えるわけも無く……
出来るのは、ただただ笑顔を作る事だけだった。
『この戦が終わったら……』
そう約束して幾年経っただろうか ――…
この都に戻ってから、ずっと、ずっと、貴方と出逢った"ここ"で待っていた。
幾つのも季節を見送って、やがてまたここを幾つもの戦禍が通り過ぎた。
本当は分かっていた。
貴方が二度とこの地に足を踏み入れる事は無いと……
それでも諦める事なんて出来なくて……
待てども待てども、貴方の消息は何一つ聞こえてはこなかった。
風の噂では、遠き地まで戦い続けた挙げ句に逆賊とされてしまった事だけ。
新しい時代の波で、親しみのあった町も変化し、思い出も消え失せていくようで……
ふと懐かしさが込み上げ、あの時と唯一変わらぬ空を見上げると、清々しいまでの青だけが広がっていた。
「腹減った~」
「帰りにどっか寄っていかへん?」
「え、じゃラーメン」
……ああ、やっと見つけた。
ずっと、ずっと、この日を待っていたのかも知れない。
『……少し待ちくたびれてしまいました』
懐かしさと貴方の健やかな姿に、春のうららかな日差しのような穏やかな気持ちに満たされ、微笑みが零れた。
「?」
触れられるわけも無いのに、そっと貴方に触れてみた。
もしいつか、また巡り逢う事ができたなら……
「うわっ、」
一陣の風が舞う。
「桜?」
「一輪だけずいぶん遅咲きやな」
ひらひら、ひらひらと、ようやくたどり着いたのは、その手のひら。
願わくはまたいつの日にか……
あたたかい光に包まれ風と共に舞い上がる中、有り得ないけど一瞬絡んだ視線。
思い出と変わらぬ柔らかな微笑みに見送られ、貴方の呟きだけが聞こえた。
「……ずっと待っとるから」
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