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ジャクヤが微笑(ほほえ)んでいった。
「今です。鳥居くん、グラスを胸の高さにあげて……そう、もうすこし右に……そこでいい」
なにが起きているのか、その場にいた誰もわからなかった。その瞬間、氷が砕ける音が鳴った。テーブルに飾ってあった74式突撃銃を抱えた女性兵士の氷の彫像がひび割れる音だった。着剣した銃剣の先が折れ砕け、粉々になってクニのもつカクテルグラスに降りかかる。
半分ほどフルーツカクテルが残っていたグラスのなかはクラッシュアイスでいっぱいになった。クニは目を丸くしている。
「おまえ、後ろも見ずにわかったのか。いつ氷が溶けて、像が壊れるかも……」
ジャクヤは返事をしなかった。ただじっとタツオの目をのぞきこんでくる。
未来を左右し、戦争の勝敗を揺るがす魔眼の力。タツオは同じ年の少年少尉がもつ他を超越した能力に恐れを覚えざるを得なかった。
「たいへん失礼いたしました」
ウエイターたちが駆け回っている。タツオは呆然(ぼうぜん)としたまま、白いクロスがかかったテーブルの上の砕けた突撃銃を抱えた女性兵士の氷像を見あげていた。
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