囚われた魂

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「ふふふ、ダメダメ。私からは逃れられないって言ったじゃない。いくら邪魔されようが私はあなたを連れて行くんだからね」  背筋がゾゾゾッとした。ごくりと生唾を呑み込み、声の主へと目を向ける。  そこには、白いワンピースを着た女性がひとり。青白い顔をして、引き攣った笑みを湛えている。さっきの雲の化け物と同じ顔をした女性だった。  なんとなく危機感を覚えて功は後退った。 「来るんじゃない。おまえは誰だ」 「誰だなんて酷い。私はこんなにも愛しているというのに。まさか、あの女の方がいいとでも言うのか。ただ待つだけのあの女が」  目の前の女性の目がつりあがり朱に染まっていく。やはり化け物だ。逃げなきゃ。 「来るな、来るな。化け物め」 『化け物』という言葉に怯み、元の顔立ちに戻っていく。 「化け物……だなんて。私は、私は違う。ただ一緒にいたいだけだというのに」  功には女性の言葉の意味がよくわからない。  ――俺のことを知っているようだけど。覚えがない。どうすりゃいいのか。 「私のことを本当にわからないの。相田沙里よ」  功はかぶりを振り「わからない」とだけ呟いた。 「そう、それでも私は連れて行く」 「どこへ」  沙里と名乗った女性が、ニヤリと笑み指を差す。そこには川が流れていた。向こう側には花畑が。その川に木で出来た橋がひとつ。これって、三途の川。
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