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まただ、誰かの声がする。
「待っているからね。大丈夫よ。きっと助かる。亜美がここにいるからね」
えっ、亜美?
功の心臓がドキンと跳ね上がった。
思い出した。
――亜美、亜美なのか。そうか、待っていてくれているんだな。死んでなるものか。
「黙れ、黙れ、黙れ。亜美などに渡してなるものか。私のものだ。あの橋を渡ってしまえばこっちのもの。行くぞ、功」
鬼と化した沙里は、強風にも屈することなく目の前までやってくると袖口を掴み引っ張って行こうとする。功がどんなに諍っても意味がないくらい力強く引っ張られていく。腕も掴まれて万力で締め付けられたような力が加わっていく。
ダメだ、ダメだ。死にたくなんかない。
「亜美、俺はここだ。亜美」
「黙れ、亜美の名前など呼ぶな。沙里と呼べ。どうせ、すぐにおまえも私のことしか見られなくなるさ」
***
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