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雲が、雲が……人の顔に。
登崎功(とざきこう)は、すぐに視線を逸らして黙考した。目の錯覚だ、きっと。大丈夫、大丈夫だ。空に人の顔の雲が浮かんでいるわけがない。ひとり頷き、再び空へと目を向けてハッとする。
顔だ、女性の顔だ。なぜあんなところにいる。誰がどうみても顔にしか見えない。他の雲は風に流れて形を変えているのに、顔の形をした雲だけ同じところに留まってじっとこっちを見つめてくる。
嘘だ、嘘だ。うわぁ、睨み付けてきた。そうかと思ったら、笑みを浮かべた。
あまりにもの衝撃で身体が硬直してしまった。血の気が引き、背筋に悪寒が走る。功はわなわなとその場に崩れ落ち両手で身体を支えるようにして座り込んでしまった。両手が砂に埋もれていく感触がした。気のせいだということはわかっているがそれくらい気が動転していた。
海風が髪を乱し、霧状になった波飛沫が頬に降りかかってくる。それでも、その場から動けず空の一点から目を離すことが出来なかった。
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