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「どこへ行こうっていうの。私からは逃れられないわよ」
やめろ、話しかけるんじゃない。化け物は消え失せろ。
ダメだ、あんな奴の話など聞くんじゃない。無視をしろ。とにかく走れ。
けど、どこまで走ればいいんだろうか。砂浜はどこまでも続いている。永遠に続いている。どんなに走り続けても景色が変わらない。隠れる場所さえない。どうすればいい。自分の息遣いが耳障りにこだまする。
化け物に食われてしまうんじゃないだろうか。
刹那、身体を仰け反らせるような突風が前から押し寄せてきた。まるで強制的に足を止められた気分だ。これはまずい、雲の化け物の餌食になってしまう。そんなの嫌だと、グッと足に力を込めて風に刃向かい踏ん張り進もうとする。ダメだ、身体が持って行かれそうだ。そう思ったとき、風は突然向きを変えてするりと通り過ぎていく。すると、空からの呻き声が耳に届いた。
恐る恐る空へと目を移すと、顔になった雲は跡形もなく消え去っていた。
――助かった……のか。助かったんだよな。
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