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突風が雲の化け物を消滅させてくれたのだろう。天が味方してくれた。ホッと胸を撫で下ろして砂浜に腰を下ろす。
嘆息をつき、海を眺めて波音に耳を傾ける。さっきの突風はなんだったんだろうか。今は気持ちいいそよ風が髪を撫でていき、海は穏やかに凪いでいる。細波の音が心を落ち着かせてくれる。
それでも、自分の名前は思い出せない。もちろん、この場所もわからない。危機が回避されたとは言い切れない。不安にさせるのは、あたりを見回してみても人っ子一人いやしないことだ。
いや、何かが来る。
あれはいったい……。黒い影が遠くからやってくる。微かに羽音がする。今度はなんだ。
鳥じゃなさそうだけど。目を凝らしてじっとみつめた。
あっ、蜂だ。ただの蜂じゃない。デカい。異様にデカい。ここは災いを呼ぶ場所なのか。くそったれ、また走らなきゃいけないのか。
急いで立ち上がり、方向転換すると砂浜を駆け出した。思うように走れない。砂浜じゃない場所はないのか。背後からの羽音が大きさを増して確実に近づいていることを告げている。
ダメだ、追いつかれてしまう。今度こそ万事休すだ。
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