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前方の信号が赤になり、ブレーキを踏んだ父が「いやあ、残念だ」とため息を付く。
「何が残念なの?」
窓の景色を眺めながら、私はたずねた。
「もしお前が死んだら、レンを養子に迎えようと思ってたのになぁ。やっと息子ができると喜んでたのに、残念だった」
「……」
信号が変わり、車が走り出す。
ブブブ、ブブブ。
夫のスマホが振動する。画面を確認した夫は、何事もなかったかのようにスマホをポケットに戻した。
「誰から?」
「ああ、ユウ。後でかけ直す」
「……」
助手席で眠る母は、見覚えのあるアイシャドウを塗っている。
「グミ、おもちゃ」
寝ながら笑う息子。
ふう。深呼吸をした私は、再び決心する。
(100歳まで生きてやるぞ)と。
完
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