第1章

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 窓の外、遥か下に広がる公園を見つめる。コンタクトを外した私の裸眼は、0.1程度。  だだっ広い公園も、ポツリポツリと灯る電灯も、真綿をうっすらかけたように、ぼんやり夜に溶け込んでいる。  病院の消灯時間から、どのくらい経っただろうか。大量のステロイドを投与されている私は、睡眠剤を使ってもすぐに眠りから覚めてしまう。  24時間、輸液ポンプから首の静脈に向かって、栄養やら薬やらが送り込まれる。最後に口から食事をとったのは、いつだったっけ。  たぶん、治療はうまくいっていない。やせ細る身体と治まらない腹痛がその証拠だ。 (もうダメかもしれないな)  ふと、そう思った。それは、きっと仕方のないことなのだと。  ずっと、死ぬことが怖かった。でも、こうして極限まで体力を奪われると、人は恐怖をあまり感じないらしい。  ただ、心残りはある。  夫と息子。私を育ててくれた両親。私の大切な家族。特に息子はまだ2歳。母親を失うには幼すぎる。  私がいなくなったあとの家族を思うと、心が痛んだ。  もし、家族が幸せに暮らしているとわかれば、安心して死ねるのに。  例えば、私が死んでから5年後の世界で、皆が元気に暮らしている姿を見れたらいいのに。 「いいよ~」  とうとう、幻聴と幻覚が現れた。モルヒネの副作用かな。  それでもいいと思った。
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