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だって、目の前にいるのは私の愛する息子、レンだったから。しかも、ミツバチの衣装を着て愛くるしくベッドの上を飛び回っている。
「妖精だお」
「そっか~、レンは今、妖精さんかぁ」
私は微笑んだ。
「レンじゃないお。リンだお」
「リン?」
何かのゴッコ遊びをしているのだと思い、私は息子に合わせた。
「妖精のリン君ですか? 今日は何しに来たの?」
息子はにっこり笑った。
「んと~、願い事叶えてあげうよ」
幻覚でも愛おしい。私は息子に手を差し伸べる。
「ありがとう。それじゃあ」
「じゃあ~、願い事は透明人間でいい?」
息子が私の胸元にぴたりと張り付いた。
「透明人間?」
「うん。透明人間でいいね」
そんな願い事した覚えないけどな。強引に話を進める息子をぎゅっと抱きしめる。重さはないけれど、温かい。この世の終わりに、神様は最高のプレゼントをくれた。
息子と戯れながら最期の眠りにつくのは、悪くない。
「じゃあ、透明人間でお願いしますね」
私が頭を下げると、にやりと笑った息子が、私の頬を両手で挟む。
「じゃあ、いきますね~。ぱおーん、ばーばが、ジャービルになっちゃった~」
体が軽くなり、私は宙に浮いていた。ぼやけていた視界が、鮮明になっていく。
下を見下ろした私は、硬直した。そこには、もう一人の私が寝そべっていたのだ。
「レン、これ透明人間じゃなくて……幽体離脱、だよ」
レンが慌てて首を振る。
「ちがうちがう。レンじゃなくてリンだお。それじゃあ、行くよ~」
「行く?」
レン、ではなく、リンが難しそうな顔をして、こっくりと頷いた。
「とりっぷだお。ほら、んと、言ってたでしょ? 家族どうしてるかな~って」
「え? ああ、5年後のレンとパパたちがどうしてるかなって?」
「そう。連れて行ってあげるお。でも、着いたらリンはいないからね。いい?」
文字通り目を丸くする私に、「ハイは?」とリンが要求する。
何がなんだかわからないまま、私は「はい」と応えた。
「じゃあいきますね~。にゃんにゃんが、ビーバーで、ばーばをたべちゃった~!5十3百23年後に、とり~っぷ!」
「え? 何年後?」
強烈な光が私を包み込み、そのまぶしさに耐え切れず目をつぶる。
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