第1章

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(もういいお~)  頭の中でリンの声がして、私はそうっと目を開けた。 「ここは……」  キッチン付きのフローリング、小さな茶色のローテーブル。窓際のチープで赤いソファーベッド。置き場所に困る程山盛りの、車のおもちゃ。  リビングの隣の畳に、小さな背中が見えた。 「レン」  鮮やかなブルーのトレーナを着て、あぐらをかいている小さな男の子。私の愛息子だった。 (んとね、透明人間は、喋れないからね。触れないからね。じゃあね~、がんばってね~、ばいば~い)  そう言ったきり、声はぷつりと途絶えてしまった。取り残された私は、レンへと足を進める。飛べないのは、私が幽霊ではなく透明人間だからだろうか?  レンは、ブロックに熱中していた。 「これは、こうで。こっちが~、タイヤでしょ? あれ? タイヤはいらないんだっけ」  ぶつぶつ言いながら、熱心に何かを作っている。真剣なまなざし。縦に一つ、横に二つと重ねていく。私が知っているレンは、もう少し単純な形の車やバスを作っていた。この乗り物は、二階建てバスかな。それともブルドーザー?  いつもブロックで大好きな車を作っていた。  身長もほんの少し伸びている気がする。ジンと胸が熱くなる。 「大きくなったね」  撫でようと伸ばした手が、するりと宙をかすめた。こんなに近くにいるのに触れられない。 (今から死ぬ人間が、こんなことで落ち込んでいてはダメだ)  私は身を引き締めた。  改めてレンを眺めて、ふと疑問が湧き上がった。確かに、ちょっと大きくなっている。   身長が数ミリ。体重は1キロ弱、だろうか。  たぶん脳も成長している。けれど、ここが5年後の世界ならレンは7歳のはず。ピッカピカの一年生には、とても見えない。   ガチャガチャ。  小首を傾げる私の耳に、玄関の鍵が開く音が届いた。 「ただいま~、レン。ちゃんとお留守番出来てた~?」
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