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スーパーの買い物袋を抱えてリビングに現れたのは、母だった。
一目見た途端、私は胸を詰まらせた。中年太りの身体が、一回りも細くなっている。娘を失ったショックが、母を弱らせたのだと思った。
(お母さん、ごめんね)
私は、親不孝モノだ。
顔を上げたレンが、満面の笑みを作る。
「レンはブロックして、お留守番してたお」
「まあ、エライ。さすが3歳は違う!」
(3歳)
2歳7ヶ月だったレンが3歳。
リンはきっと、5年と5ヶ月を間違えたのだ。
「すごいブロックだね。これは、ダンプカーかな?」
レンを抱きよせ、母が頬にキスをする。
「ちがう、ちがう。んと、ほら、ロボだお」
母の手を握り、得意げに笑うレン。
「今日はい~っぱいグミ買ってきたからね」
「食べう~!」
(あれほど、おやつはあげないでって言っていたのに)
息子が「おばあちゃん大好き」と、3粒のグミを放り込んだ。
「おばあちゃんも、レンがだ~いすき」
見つめ合い、にこにこ笑う二人。
(……なんか、結構幸せそう)
なんだろう。この、モヤモヤした感じは。
私が死んでからそんなに経っていないのに、母も息子も、幸せなオーラが溢れている。もちろん、いいことだけど。
笑顔の母が、ふと表情を変える。
「レン、実はね。おばあちゃん、話しておかなければならないことがあるの」
「ん? 何?」
ぶどう味のグミの食感に酔いしれながら、レンがたずねる。
「実は……ママのことなんだけどね」
(そういうことか)
そこで私は、全てを理解した。
つまり、ママが死んだ事実をレンはまだ知らないのだ。だから、いつもどおりの笑顔でいられるのだと。
それなら、もしママがいないと分かったら、一体あの子はどうなってしまうのだろう。
「ママはね、実はね」
「やめて! お母さん!」
恐ろしくて、私は叫んでいた。
レンが泣く姿を見たら、成仏できないよ。
けれど、私の声は母には届かない。
「実はね、レンのママはね。レンのママは……おばあちゃんなの」
「は?」
一瞬、母の言葉が外国語かと思った。
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