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「あ、もしもし、お父さん?」
廊下の奥から母の声が聞こえ、私は慌ててそちらへ向かう。
『おう、どうした?』
懐かしい父の声。母はともかく、父は三姉妹の中で私を一番可愛がってくれた。父は、実家で涙にくれているに違いない。
「あのね。レンに養子の件を話したらOKだって。気が早いから、私のことをママって呼んでるのよ。もう、困っちゃう」
年甲斐もなくポッと赤らむ母。
そうだった。この人はこういう人だった。非常識というかなんというか。
(お父さん、娘の子供を横取りして喜んでいるお母さんに、何とか言ってあげて)
父がため息を付いた。
『ママって、お前……』
「そうよ! 不謹慎すぎるよ、お母さん」
私は眉間にしわを寄せ、うんうんと頷いた。
『それだと、オレがパパになるじゃないか! 照れるだろう』
「は?」
ポカンとする。今のは、幻聴だよね?
「頑張ってダイエットして良かったわ。娘の化粧品も結構似合うのよ。お父さんもハゲないように注意してね」
『パパがハゲてちゃまずいか。いや~、やっと念願の息子が手に入るのか!』
テンションの高い父が、しみじみと呟いた。
『息子をプレゼントしてくれるなんて、本当に親孝行のいい娘だった』
なんか、しんみりするところがズレているんですけど。
『あとは、和也君か』
そうだ、と気を取り直す。夫の和也がレンを手放すなんてありえない。夫は、誰よりも私とレンを愛していたのだから。
きっと夫は仕事も手につかないほど憔悴しているはずだ。
「それなら、絶対大丈夫!」
妙に自信たっぷりの母が、声を潜めた。
「和也君、新しい人見つけたみたいなの」
はい?
いやいやいや、それはさすがに思い違いでしょう。
私は漫才師並みに片手をブンブン振っていた。
和也は「度」がつくほど、女性に奥手だ。これまで浮気はもちろん、女の影すらちらついたことがない。
外出先でも、私以外の女に目をくれたことすらない。
『そうか~。あれからもう5ヶ月も経ってるしな。和也君はまだ若いし、第二の人生を歩むなら、早いに越したことはないからな』
5ヶ月って、『もう』なの? いや『まだ』でしょ?
一人ツッコミが止まらない私。
『なんにしても、家族皆が幸せなら娘も安心して成仏できる。めでたしめでたし』
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