第1章

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「ただいま帰りました~」 「あ、和也君が帰ってきたから、詳しくは戻ってからね」  手早く携帯を切った母が、にこにこと玄関へ向かう。 「おかえりなさい」 「すみません、急にお願いしちゃって」  スーツ姿の和也が、革靴を脱ぎながら、母に頭を下げた。 「休日出勤も大変ね。私たちはいつでも暇だからいいのよ。メモにあった食材も買ってきたから」  母が夫のカバンを持ち、リビングを気にしながら話を続ける。 「それでね、養子の件なんだけど、レンも乗り気みたいだから」  一瞬、停まった和也が、「そうですか」と頷いた。 「保育園通いの父子家庭より、ずっといい環境だと思います」  何度も頷く和也を見て、私は、やっと気がついた。  私の死からわずか5ヶ月で立ち直ったように見える家族。  それは、全てレンのためだ。  心身共に成長期の息子の一日は、大人のそれよりも遥かに密度が濃い。その大切な日々を無駄にしまいと、両親も夫も懸命に生きている。  自分勝手だったのは、私だ。  家族が幸せになって欲しいと願いながら、私は、私への深い哀悼を求めていた。  「パパ~、お仕事おつかえさま~」  右手にグミを握り締め、レンが和也の元へかけてくる。 「レンね、今日お留守番したお。おばあちゃんがママで、グミを2個も食べたお」  和也がレンを片手でヒョイと持ち上げた。 「そっか~、レンはおばあちゃん好き?」 「うん! だから、おばあちゃんちに住む! んと、そうしたら~、ほら、パパもお仕事沢山できうから」   (レン……)    こんなに小さいレンでさえ、家族のことを思いやっている。   「……そうか。そうか」  言葉を詰まらせた和也が「レンはエライな」と小さな頭をぐしゃぐしゃ撫でた。  母もうんうんと頷いた。 「おばあちゃんの家とパパの家は、電車で一駅だもの。いつでも会えるから寂しくないね」 「うん! パパがいなくてもおじいちゃんとおばあちゃんがいれば、楽しいお」  その日の夕食は、和也特製のビーフシチューだった。    
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