第1章

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 私は、三人が楽しく食卓を囲む姿を見守った。  それぞれが、未来に向かって一歩ずつ踏み出している。  レンも健やかに成長している。  食後、手馴れた様子で母がレンと手をつなぎ、お風呂場へ向かった。  お気に入りのジャズをかけながら、和也が食器を洗う。カチャカチャ陶器がぶつかる音が心地よい。私は和也の背中をふわりと包み込むように抱きしめた。  触れなくても、ぬくもりが伝わる気がした。 「今まで、ありがとう」  目をつぶると、身体が空へ浮かぶ感覚があった。きっと、成仏するのだ。  ブブブ、ブブブ。  その私を引き留めたのは、機械的な振動音だった。ポケットに入ったままの和也のスマホが震えている。タオルで泡を拭いた和也が通話ボタンを押した。  一瞬、母の「新しい人」が脳裏に浮かぶ。 『久しぶり』  聞き覚えのある男性の声だった。ユウ君という、和也の学生時代からの友人だ。結婚後、何度か家に遊びに来たこともある。二人がちょくちょく連絡を取り合っていることは私も知っていた。  母の勘違いだ。  疑い深い自分にも苦笑い。    和也は「おう」と短く返した。 『いや、その。息子さんは、その後どうなったかなと思って』 「妻の実家が引き取ることに決まったよ」 『そっか』  短い沈黙。 「そっちは?」和也が聞く。 『離婚が決まったんだ』 「そうか」  また、沈黙。  どちらも、かける言葉が見つからないのだろう。  夫もユウ君も、形は違えど独りになってしまった。  二人共、今度こそ幸せになって欲しい。心底そう思った。 「今度こそ、俺たち幸せになろうな」  私の思いが伝播して、和也がそれを言葉にする。  ふう。と電話越しから小さな溜息が漏れ、ユウ君がしんみりと言った。 『やっと僕たち、一緒になれるんだね』
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