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きっとあっけないぐらいにすんなりと落ちてくれるだろう。そうして怒鳴り散らすだろう。私は、その声をいつものように怯えながら聞くのではなく、愛おしむようにしっかりと心に刻むのだ。
穴ができた代わりに積み上げられた土は、床板の下にあるはずだった空間を覆い隠すに違いない。その上から外しておいた床板を再び嵌める。そして新しい畳を敷く。
怒鳴り声は土に遮られ、畳の下からだけ聞こえるだろう。
その声に毎日耳をすませる。日に日に小さくなっていく声。これほどまでに、あの人の声を穏やかに聞いたことなどないだろう。
そして、こちらの声は全く聞こえないあの人に向かって、そっと話しかけるのだ。
「……私、聞こえなくなるのを…………『ずっと待ってるから』」
自然と口元がほころんだ。
目を開けると部屋には夕日が射し込んでいた。赤く染まった壁を見ると変に落ち着くのは何故だろう。
廊下に出て和室へと向かう。
たまには念入りに掃除をするのも悪くない。畳を外し、溜まっている埃を取り払おう。
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