メガネ拾いました。

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「おかげさまでこの通り」  飯塚さんはポケットから取り出したものをカウンターに置き、そうしてそのひと言。  勿論、カウンターに置いたものとは、例のメガネ。  メガネは、これは琥珀(コハク)色でいいのかな? フレームはそういう色。で、レンズは大きくて、完全な丸じゃないけど丸に近い形で、その形その色に何だか優しいものを感じて、このメガネをクール系の顔の飯塚さんがかけるのはちぐはぐな気がする。けれど一方、そのちぐはぐな2つが合わさったらどんな風になるのか、ちょっと興味がある。  でもまあ、それはとりあえず横に置き、1週間ぶりとなるメガネに心の中でお久しぶりと言うと、メガネの方も、オヒサシブリデスと返事をしてくれた気がして、……はい、ここで終了。ちょっと妄想&ちょっと微笑ましい話はここまで。  なぜなら、飯塚さんが次に口にしたことが微笑ましさの欠片もない、メガネへの非情宣告だったから。ただしその宣告は、メガネに向かってではなく、おじいちゃんに言った。 「あの、できればでいいんですけど、このメガネ、捨てては貰えないでしょうか?」  危うく、エエッ! と、声を出しそうになった。そんな私の目に映っていたメガネは、そのレンズをキラリと光らせた。  そのキラリは、背後にある窓からそのとき急に差し込んできた光の反射。それはわかっていたけれど、でもそれでも一瞬涙が光ったように思えて、胸の中がキュッとなった。
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