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メガネを拾う。
そういうことはその日まで、私の人生にはなかったことだ。
ところが2月14日(日)。世間的にはバレンタインデーであるその日、東北の某県某所にて、私は人生初、メガネを拾った。
見つけたときは正直、拾うかどうか迷った。その迷いを拾う方に決断させたのは、メガネの声だった。いや絶対空耳なんだけどね。でも、ヒロッテクダサイと、心細いような声が聞こえてきた気がして、そして気がつけば、メガネは手の中にあった。
メガネはひんやりとしていた。私の手の熱をあっという間に奪っていった。それなのにホッとしたのは、奪われた熱の分だけメガネが温かくなったのを感じたから。
さて、メガネを手にした私がそのあと向かったのは、すぐ近くにあった喫茶店。商店街の通りからは1本外れた細い道沿いにあるそこは、名前をランコントゥルと言う。単品メニューはコーヒーだけ、他のメニューには必ずコーヒーがセットでつくという、コーヒー(のみならず、実はカップにも、だけど。)へのこだわり深い喫茶店だ。
私がそうもその店に詳しいのは、その店が私のおじいちゃんとおばあちゃんの店だから。そもそも私が店の前の道を歩いていたのも、実は店に行くためだったりする。
店に入ると、すでにおじいちゃんがいて、おじいちゃんは笑顔で「来たね」と。
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