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「いらっしゃいませ。お1人さまですか?」
この1週間で身につけた営業スマイル。イイ男なのでいつものそれより割増しした笑顔でそう尋ねると、その人はためらうような仕草を見せ、それから言った。
「あの、メガネのことで」
メガネ? と、すぐには思い出せなくて内心首をかしげ、けれどまもなく思い出し、
「ああ! メガネ!」
と、つい大声で。
「す、すみません、急に大声出してしまって」
そう謝る相手は、目の前のその人は勿論、昼下がりのいま、ゆっくりじっくりコーヒーを味わっていた店内の数人のお客さまにも。
「もしかしてあのメガネの持ち主の方ですか?」
下げた頭を上げた直後、そう言う声が背後から聞こえてきて、確認するまでもなく、声の主はおじいちゃんだ。
目の前のその人は、私から目を逸らした。そうしてカウンターの奥にいるはずのおじいちゃんを見たのだろう、「はい」と言って――。
飯塚尚也(イイヅカナオヤ)。20歳の大学2年生。
その人がそういう人であることを、私はこのあとすぐ知ることになる。いや単に、自己紹介したからだけどね。
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