メガネ拾いました。

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「いや、いまは確かにコンタクトだけど、あの頃はメガネばっかりで、コンタクト切らしていたのに放置だったから――」 「あ、そうですよね! いまはコンタクトなんですよね! 目の前で見てるのに、メガネのことにばっかり頭が行っちゃって、いまメガネがないのにある気で話しちゃってました」  アハハとごまかし笑いする私に、飯塚さんが向けてくる目は普通。ところがもうひとつの目――それも私に向けられたものだったけれど、そっちの方は厳しい、いや、鋭い。  その鋭い目の主はおじいちゃん。飯塚さんの方を見て話す私には、おじいちゃんは視界の端に見えて、その口元はさっきのニコニコのまま。だけど目は鋭い。いつもの、可愛い孫娘を見るときの慈愛に溢れた目とはかけ離れたその目でジッと私を見ている。  でも、私はこの目を知っている。いや、この1週間で知った。  それは例えば注文を取り間違えたとき。または違うテーブルに注文の品を出したとき。あるいは皿やカップを割ってしまったとき。そんなときにおじいちゃんはいまのような鋭い目で私を見てきた。でも、それで終わるならまだいい。このあとは大抵、お客さまの見えないところで数分のお小言。  インスタントな私と違って、本職の客商売であるおじいちゃんは、お客さまへの粗相には、例えそれをしたのが可愛い孫娘でも容赦しないのだ。
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